大震災からの復興と再生のためにファッションに何ができるのか

 2011年3月11日東日本を襲った大地震と津波で死者と行方不明者の数は、2万人に及ぼうとしている。お亡くなりになられた方々には、深く御冥福をお祈りいたします。また福島の原子力発電所は、制御不能に陥り地域住民を放射能の危険にさらし続けている。この大震災からの復興を目指す過程でファッションに何ができるのかを問うてみたい。

 14世紀に全ヨーロッパを覆ったペストは、15世紀までの数十年で全人口の25%から30%を超える程度の死者を出したという。樺山絋一は次のように述べている。

 死は、なおも暴威をふるう。だが、死のかなたには、栄光がかがやいてもいる。ルネサンス人は、死と生との険しいせめぎあいのなかで生のかけがえのない価値に思い当ったようである。(註)

 3月14日の月曜日、ガソリン不足のため徒歩で仙台中心部の商店街に向かった。一足早く電気の通った幾つかの商店が無料で携帯電話のバッテリーを充電させてくれると新聞で知ったからである。二時間程かけて充電させていただきお礼を述べてから一番町に向かった。その横丁で気丈な女将に炊き出しのお握りと味噌汁をふるまわれた。お礼を述べると「頑張りましょう!」と声をかけていただき熱いものが込みあげてきた。

 東北には、田植のとき順に各戸を巡り農作業を手伝う結と呼ばれる相互扶助があった。その互助の精神が大震災に打ちのめされたこの地方都市に脈々と引き継がれているではないか。戦後復興は、工業化による経済成長によって成し遂げられた。大震災からの復興は、科学技術万能神話の崩壊から地域文化の再生として成し遂げたい。

 しかし、科学技術の進歩を全否定するつもりは毛頭ない。ルネサンスの文化運動は、芸術と科学とが渾然一体となって中世の神中心の世界からギリシャ、ローマの古典古代の文化的遺産との対話によって人間中心の近世の扉を開いた。悲しみを乗り越えて大震災からの復興と再生の担い手が輝くためにその諸活動をサポートするファッションをルネサンスとみちのくの文化を引き継いで提供していきたい。

(註)樺山絋一『ルネサンスと地中海』(中央公論社,1996年10月20日初版)

仙台本社にて

2011年4月9日

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