建築デザインの過去・現在・未来

 4月初旬、建築家安藤忠雄氏のデザインによる表参道ヒルズを訪ねた。1923年の関東大震災の後に建てられた同潤会青山アパートが老朽化により取り壊しとなり、新たに建て直されたものである。

 表参道の欅並木沿いの旧青山アパートは、震災や戦争からの復興の歴史を生きた人々の生活の場であった。その痕跡を外観と内部に残しながら、見事に再生させたと言えるであろう。

 外観から言えば、地上階は欅並木の高さを超えぬ程度の五階に抑え、都市の風景における人々の記憶を留めることに成功した。

 一方、建物の内部構造は、地上五階から地下四階に至る巨大な吹抜けの空間を創出し、スロープ式の通路ですべての階の周遊を可能にしている。そのため来館者の視野は、館内全体に及ぶ。たが個々のショップは足を運ばぬ限り覗くことはできない。

 それにしても、スロープの通路を歩いて感じる優しさは、一体何なのだろうか。初めて訪れたのにも拘らずそうではないような巨大な空洞の中での感覚は、母親の胎内で微睡んでいた無意識の原体験を呼び起こすからであろうか。

 ふと建築における視線の問題を思い起こした。フーコーが「監獄の誕生-監視と処罰-」の中で、ベンサムの「一望監視施設」に言及した事柄である。その建築においては、一人の監視者がすべての受刑者を一望できるが、それぞれの受刑者の視野は閉ざされる構造となっている。近代の学校の教室もまた教師と生徒の間の視線の関係によって秩序づける構造となっているだろう。日常生活の隅々にまで及ぶこうした近代の建築思想に基づく視線からの脱構築の試みが、安藤忠雄氏によってなされつつあると言えば、筆者の独合点となるであろうか。

 弊社の取扱うバッグのデザインとその顧客とを媒介するウェブサイトというメディアの双方において、近代からの脱構築を目指す勇気を頂戴したように思う。

2006年4月25日

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